09-01

09-01 大野ダムの地質

 北海道新幹線は新函館北斗駅から真っ直ぐ北上せず、大きく西に迂回し、大野ダムと鶉ダムの間を抜けて新八雲駅を目指す。大野ダムの東側をまっすぐに抜ければ最短距離であるのに、なぜ大野ダムの西側にまで大きく路線を振ったのであろうか。この地域の地質の特徴は、この新幹線のルートに示されている。

 駒ヶ岳から函館平野にかけて、様々な地下水盆(地下水を浸透、貯留する大きな水がめ)が存在することが知られている。大野ダムの建設された大野川上流左岸にも大きな地下水盆が存在することが古くから知られていた。このため北海道新幹線の路線の選定にあたっては、大野川上流の水理地質構造の詳細な調査が行われ、地下水盆の規模が推定された。また数十m離れたボーリング間で圧力伝播試験を行ったところ、ただちに圧力が伝播することが分かり、水理地質に大きく影響する亀裂の連続性が極めて高いことが判明した。このことから大野川流域では、連続する亀裂に支配された水理構造を有していると考えられた。

 また、大野ダム近傍で水理地質調査のため15mの斜坑が掘削されたが、斜坑からは毎分1.5m^3の被圧水が湧出した。このような被圧水の存在する地域にトンネルを掘削することは、施工や維持管理上問題が多い。このため地下水盆を避けるために、路線を西方にどこまで振るか、詳細に検討された。その結果、大野ダムの西側であれば、問題がないことが判明し、新幹線渡島トンネルは大野ダムと中山峠の中間地点を通過することとなった。

 大野ダムの基礎岩盤は半深成岩のヒン岩(学術用語ではなく、コンサルタント業界の用語)*である。 ヒン岩は新第三紀中新世の八雲層相当の頁岩中に貫入している。貫入の状況はダムサイトのある大野川左岸ではなく、国道227号を挟んだ大野川右岸において観察することが出来る。

 半深成岩のヒン岩は亀裂に富んでいるが極めて硬質で、岩体内部においても岩相の変化がほとんどない均質な岩盤である。CL級岩盤のせん断強度はτ=1.2+σtan42°(MN/m^2)、CM級岩盤のせん断強度はτ=1.8+σtan50°(MN/m^2)であり、50m級の重力ダムの基礎として十分な強度を有している。

 大野ダムにおける地質上の問題は、新幹線の路線選定にも影響を与えたように、地下水の問題に尽きる。ダムサイトにおいて自噴する被圧水が存在し、河床より12m高い水頭を有している。連続する亀裂の性状を反映し、降雨時にはアバット部のボーリング孔内の地下水位は急激に上昇する。ダム軸下流の被圧地下水の水質は、地山の地下水と河川水の両方の性質を有している。地表近くではヒン岩中の連続性の高い亀裂を介在し、地山地下水と河川水が相互に影響を及ぼしている。

 重力式ダム提体の基本三角形に対して、ダム軸上流側に増厚された三角形部分をフィレット呼ぶ。通常フィレットは堤高に比較し、せん断強度が低い場合、基本三角形の上流側にコンクリート増厚部を設け、岩盤との接触面を広くして必要なせん断抵抗力を確保する。

 大野ダムではダム高に対する基礎岩盤のせん断強度が十分であるにもかかわらず、上流側にフィレットが設置されている。重力ダム提体に作用する荷重には、自重、静水圧、揚圧力など様々な荷重がある。特に揚圧力は、貯水池からの浸透流によりダム提体を持ち上げる方向に作用するため、安定性の検討において重要な荷重である。大野ダムでは、揚圧力を大きく見込んだために、フィレットの設置が必要となった。

 大野ダムでは揚圧力の与え方について、被圧地下水という水理地質状況を反映し、他のダムとは異なった設計がなされている。河床部では揚圧力としてダム提体下部全体に、上流側揚圧力である貯水圧をそのままの値で与えている。すなわち、揚圧力として、ダム提体上流端から下流端まで貯水圧100%の値を与えている。通常ダム下底にかかる揚水圧は、上流端は貯水圧100%、下流端は0%とすることが多い。すなわち大野ダムでは上流端から下流端にかけて揚圧力は減衰していく、という考え方を採用していない。

 通常基礎排水孔の位置を境に、2直線で揚圧力を与える。しかし大野ダムアバット部では、基礎排水孔の効果を見込まず、上流と下流を結ぶ1直線で揚圧力を与えている。基礎排水孔は揚圧力を低減し、提体の安全性を確保する機能も有している。大野ダムにおいては、被圧地下水に着目したうえで、基礎排水孔の提体安全性に及ぼす影響について三次元浸透流解析を用いて検討してもらいたかった。

 大野ダムへのアプローチはゲートに阻まれ、シャットアウトされる。しかしゲートわきの山道は天狗岳への登山道となっており、徒歩での入山は禁止されていないようである。登山道入り口に大野町教育委員会が設置した案内表示版は、天狗岳の標高を530mとしている。これはダム左岸の三等三角点(湯の先)523.3mを指すと思われる。一方、国土地理院の地形図における天狗岳は、ダム右岸の373mピークである。Yahooの地図では国土地理院よりさらに奥の425mピークを天狗岳としているが、国土地理院に地図が正しいと思われる。なお、373mピークは露岩しており、極めて急峻なため登山には注意が必要である。

*1ヒン岩:安山岩のような中間組成の溶岩が地下浅所で冷え固まった半深成岩。地質学用語としては使用されないが、地質コンサルタント用語としては定着している。正式名称は石英閃緑岩ポーフィリイである。深成岩の名前の後ろにポーフィリイを付けると半深成岩の名前となる。

 

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