33-01 富里ダムの地質
北海道の地質は西から、渡島帯、礼文―樺戸帯、空知―エゾ帯、日高帯、常呂帯および根室帯に区分されている。常呂帯は日高帯の東部に約40㎞の幅で南北に分布している。常呂帯は「付加体型」の仁頃層群と「非付加体型」のサロマ層群に区分される。
仁頃層群は海底火山起源の緑色岩、輝緑凝灰岩を主体とし、レンズ状にチャートや石灰岩の岩体を含んでいる。海洋プレート上の海山が海溝で付加したもの*1と考えられている。
サロマ層群は泥岩、砂岩、礫岩からなる堆積層であり、仁頃層群を不整合で覆っている。前弧海盆で堆積したと考えられている。
富里ダムは仁頃山地を流れる常呂川支流の仁頃川に建設されたダムである。常呂川の流域は、新第三紀の火山岩や火山砕屑岩からなる上流域、白亜紀層や先白亜紀層からなる中流域、新第三紀の堆積岩からなる下流域に分けられる。富里ダムの基礎の地質は、常呂川中流域に分布する先白亜紀の仁頃層群である。
ダムサイトの仁頃層群は緑色岩および輝緑凝灰岩を主とし、少量のチャートを含んでいる。緑色岩および輝緑凝灰岩の原岩は海洋プレート起源の玄武岩質枕状溶岩および玄武岩質ハイアロクラスタイトである。ダムサイトの仁頃層群は、緩く傾斜した地質構造をなすが、ダム建設上問題となるような破砕帯は存在しない。また輝緑凝灰岩は塑性変形を被っており、弱い片理が認められる。変形を被っているとはいえ、フィルダムの基礎としての岩盤強度に影響を与えるほどのものではない。輝緑凝灰岩の一軸圧縮強度は40MPa程度あり、おおむね堅硬である。
緑色岩や輝緑凝灰岩を主とする岩盤上には、神居ダム、三石ダム、当麻ダムなどの農業用ダムが建設されている。多目的ダムであるが北海道および北海道電力により建設された堤高120mの高見ダムも同様の岩盤上に建設されている。このように緑色岩や輝緑凝灰岩を基礎としてフィルダムを建設することは可能と考えてよい。
ただしこの岩盤は塑性変形により局所的にせん断面が発達する場合がある。このような場所は土工により変位を生じやすい。このため、ダムサイトや貯水池まわりにおいて大規模な土工を行う場合、地すべりに十分注意する必要がある。三石ダムや高見ダムでは大規模切土により地すべりが発生している。
幸いなことに冨里ダム左岸下流には大きな地すべりが存在するが、ダムサイトおよび貯水池まわりに地すべりは認められない。冨里ダムでは地すべりに悩まされることはなかった。
緑色岩や輝緑凝灰岩は弱い変質を受けている*2ことから、一般に表層風化部を除き岩盤の透水性は高くない。冨里ダムでは左右両岸ともに地表から20m以浅に存在する高透水ゾーンをカバーするようにカーテングラウトが計画された。グラウトは計画通り実施され、追加グラウトは行われていない。ちなみに神居ダムでは、左右岸で20m、河床部で10m以深における岩盤の透水性は2ルジオン以下であった。高見ダムでは河床部は3ルジオン以下、左右岸も地表付近は10ルジオン程度であるが、25m以深は3ルジオン以下であった。
冨里ダムは畑地灌漑専用ダムである。総延長102㎞のパイプラインにより農地に水を供給している。ダム左岸にはパイプラインに使用されたと思われるパイプのオブジェが飾られている。オブジェは3種類の径のパイプから構成されている。できれば説明板を設置してほしい。
ダム湖(冨里湖)は2005年に(財)ダム水源地環境整備センターが選定するダム湖百選に選定された*3。
*1仁頃層群:後期白亜紀~古第三紀にかけて、西のユーラシアプレートに向かって沈み込むプレートにより北海道西部および中央部が形成された。また北東のオホーツク古陸に向かって沈み込むプレートにより北海道東部が形成されたという仮説がある。この仮説によれば、常呂帯はオホーツク古陸に向かって沈み込むプレートにより形成された付加体とされる。
端野町から国道333号を佐呂間町に向けしばらく走ると仁頃トンネルがある。仁頃トンネルを抜けるとすぐに新佐呂間トンネルがある。新佐呂間トンネルの手前を旧国道に入る。旧国道を歩くとすぐに仁頃層群の大きな露頭がある。輝緑岩(原岩は玄武岩質の枕状溶岩)の露頭である。少し歩くと、輝緑岩と輝緑岩の間に輝緑凝灰岩(原岩は玄武岩質ハイアロクラスタイト)が分布している。輝緑凝灰岩は枕状溶岩起源の緑色岩と異なりガサガサしているのですぐ見分けることが出来る。いずれも海洋プレート上の海山起源の岩石である。富里ダムはこのような輝緑凝灰岩上に建設されている。
*2:緑色岩:玄武岩質の岩石が低温の変成作用を受けると、緑泥石や緑レン石のような緑色の鉱物が生成する。この様な鉱物を含むことにより岩石が緑色に見えることから、緑色岩と呼ばれる。緑色岩は単に緑色の岩石というだけでなく、低温の変成作用を受けた玄武岩質の岩石という意味を持つ。緑色岩は古生代から中生代にかけての地層によくみられる。常呂帯は緑色岩が含まれる日本の代表的な地質の一つである。
近年、地質学の分野においては、緑色岩や輝緑凝灰岩の名称を使用しないこととしている。このため最近の地質図では、古い時代の海洋プレート起源の火山活動の産物も、玄武岩、玄武岩質火山砕屑岩と記載される。工学の分野では、玄武岩、玄武岩質火山砕屑岩より緑色岩、輝緑凝灰岩のほうが、岩盤の工学的イメージ、すなわち岩盤の特性を想定しやすいことから、ダムやトンネルの岩盤分類では、緑色岩、輝緑凝灰岩の名称が現在も引き続き用いられている。
*3ダム湖百選;(財)ダム水源地環境整備センターが選定したダム湖。北海道内では冨里ダム、聖台ダム、金山ダム、豊平峡ダム、笹流ダムの5ダムが選定されている。
冨里ダム一帯は冨里湖森林公園として美しく整備されている。ダム左岸にはキャンプ場があり、夏にはキャンプを楽しむことが出来る。キャンプ場の水洗トイレは改めて記すほど綺麗である。キャンプ場対岸には遊歩道が整備され、木々越しに見えるダム湖が美しい。案内板もきめ細かに設置されている。
今回、このダムを訪れたのは秋であり、落葉した木々の間から水をたたえたダム湖が見えた。ダム湖百選ゆえ、秋にも落水しないのであろう。遊歩道の落ち葉を踏みしめながら歩いた。ふと、4月にNHKで放送された坂本龍一の追悼ドキュメンタリー「Ryuichi Sakamoto:CODA」が浮かんだ。そこには落ち葉を踏みしめる音にピアノをかぶせるシーンがあった。2017年のアルバム「async」について、坂本は「同期しない音楽を作ろうと思った」と話していた。Asynchronous(非同期の)とは?よく分からないが「お互いがそれぞれの調子でいること」でよいのだろうか?、などと考えながら落ち葉を踏みしめながら歩くうちに、心が軽くなるのを感じた。
心穏やかなひと時を過ごすことの出来る場所がダム湖百選に選定されるのも当然である。チラ見もさせない農業用ダムが多い中で、訪れる人に安らぎを与えてくれる貴重なダムである。このような運営をされるダム管理者にお礼申し上げる。
次回訪れる機会があれば仁頃山に登りたい。ダム湖親水広場と観察の森を過ぎれば登山口はすぐそこである。地元の方によれば春の花の時期が良いとのこと。ニリンソウ、エンレイソウ、エゾエンゴサクなどの花を眺めながら、ゆっくり登るのが楽しいそうだ。
型式:ロックフィル
完成年度:1986年
堤高/堤頂長:44m/280m
総貯水量:280万m3
水系名/河川名:常呂川/仁頃川