38-01

38-01 羽幌二股ダムの地質

 羽幌町中心部から東に23㎞のところに、かつて栄えた羽幌炭鉱がある。羽幌炭鉱は築別坑、羽幌本坑、上羽幌坑で構成されていた。羽幌二股ダムは、上羽幌坑のさらに奥、道道741号上遠別霧立線を辿った先にある。羽幌二股ダムの手前6㎞にゲートがあり、苦労してたどり着いても、チラ見もさせないダムである。

 羽幌二股ダム周辺、特にダムサイト上流は地すべりの密集する地域である。しばしば発生した地すべりによる土砂流出がダムにも影響を及ぼす恐れがある。このため1992年(平成4年)に地すべり防止区域の指定を受け、直轄地すべり対策事業が始まった。地すべり対策事業で訪れたときの記憶を頼りに、ダム地質について記述する。

 この地域の地質は、下位から古第三紀層の羽幌層、三毛別層下部、新第三紀の三毛別層上部、築別層、古丹別層から構成されている。西にゆるく傾斜する地質構造のため、ダム上流には古い地層が分布し、下流に向かって新しい地層が順次現れる。ダム付近の地質は新第三紀層中新世の三毛別層上部、築別層および古丹別層からからなる。この中で三毛別層上部はダム上流に、古丹別層はダム下流に分布する。ダムサイト付近は築別層からなる。

 築別層は下部層と上部層に区分され、下部層は砂岩、上部層は泥岩からなる。すなわち下部の砂岩から上部の泥岩へと、次第に細粒化する地層である。ダムサイトの地質は一部に礫岩を含む砂岩から構成されている。ダムサイトより上流は三毛別層上部の泥岩から構成されている。砂岩の分布する地域の山容は急峻であるが、泥岩の分布する地域は開析が進み、低平な山地を形成している。差別浸食地形から地質の分布を推定できる場所である。

 このような構成地質の相違は、岩盤の強度や地すべり分布に大きな影響を与えている。ダムサイト付近に地すべりはほとんど分布していないが、ダムサイト上流に地すべりが多数分布しているのは、上述の地質の違いに起因する。

 ダムサイト右岸にある241mピークの露頭において築別層の砂岩を観察できる。低角の斜交葉理の発達した硬質な砂岩である。葉理に沿って貝化石が認められる。この砂岩がダム基礎岩盤となっていることから、岩盤の工学的性状を想定することが出来る。ダム基礎岩盤の一部には礫岩も存在するが、ダムサイト下流の河床に顔を出しており、その性状を把握できる。羽幌二股ダムの基礎岩盤は、241mピークとダムサイト下流の河床で観察できる砂岩および礫岩である。観察結果から明らかなように、砂岩には亀裂はほとんど認められず、難透水層である。一方礫岩には開口した亀裂があり、高透水層となっている。

 1965年(昭和40年)に実施されたボーリング調査によれば、ダム軸の砂岩の風化帯は薄く、河床で1m程度、左右両岸で3m程度とし、掘削線もこの程度と想定している。透水試験結果は、砂岩で10^-3m/day、礫岩で10^0~10^-2m/dayとされている。またダムサイトには断層や破砕帯は存在しないと報告されている。

 ダムサイトの砂岩は堅硬で分離面のない難透水性岩盤である。礫岩は堅硬であるが、開口亀裂が存在し高透水の原因となっている。礫岩中の開口亀裂は、グラウトによる改良が可能である。このように断層等の不連続面はなく、岩盤強度や透水性状においても、フィルダム基礎として大きな問題はなかったと考えられる。

 地すべりについては新たな目で再度写真判読を行ってみた。判読の結果、ダムサイト両岸に地すべりは存在しない。ダム右岸側上流には、ダムサイト直上の地すべりを始め、貯水池周辺に多数の地すべりが存在している。一方、左岸側に分布する地すべりは少なく、貯水池上流部にわずかに認められる。ただし、左岸側上流には地すべりかどうか判定できない変状地形が広く認められる。地すべり対策事業では、この変状地形も地すべりとしている。

 右岸側のダム直上にある地すべりが活動した場合、ダムに及ぼす影響が大きいので、抑止工が必要である。この地すべりについては鋼管杭による抑止坑が計画された。その他の地すべりについては、いずれも緩慢な動きをする地すべりであることから、地下水排除(集水井および排水トンネル)による対策が計画された。また湛水地にかかる地すべりについては、浸食防止の護岸工が計画された。これらの地すべり対策事業が計画通りに実施されたかどうかは不明である。

 チラ見もさせないダムだからこそ、ぜひ見てみたい方への案内である。北海道百名山の一つであるピッシリ山(天塩山地の最高峰1,032m)への登山者が使う林道の利用である。登山口へ至る林道には、愛奴沢川林道とデト二股林道があり、両林道は途中で合流し、登山口はその先にある。デト二股林道は別名ダム経由と呼ばれ、ダム右岸を辿るルートであるがゲートがある。ダムへは愛奴沢川林道から入り、約6kmで両林道の合流点に着く(一部悪路となっており要注意)。ここからデト二俣川林道に入るのがよい。堤体右岸を経て、ゲートの裏側に出る。

 デト二股林道を辿った注意深い方は、恐らく次のことに気づくであろう。本流である羽幌川は清流である。しかし、羽幌川に注ぎ込むダムが設置されたデト二股川は濁流である。もちろん貯水池は濁水で満たされている。湛水池上流も濁水かと思われるが、意外にも上流の沢は清流である。すなわち貯水池周辺からデト二股川が羽幌川に注ぐまでの流域が濁水となっている。この状況から、濁水は湛水池周辺の地すべりに原因があると考えられる。地すべり対策事業により実施された護岸防護工の検証が望まれる。

38 羽幌二股ダム