39-01 美生ダムの地質
国道274号を東に走り、日勝峠に至ると眼下に雄大な十勝平野のパノラマが広がる。寒冷な気候の下で形成された「寒冷ペディメント」と呼ばれる山麓緩斜面を下ると、すぐ国道38号との交点である。国道38号を帯広方向に向かうと、車窓右手に日高山脈の最北端である芽室岳、久山岳、剣山の連なりが見える。美生ダムはこの山並みの懐に抱かれている。
美生ダムはコンクリートダムとフィルダムとの複合ダムである。左岸側の渓谷部がコンクリートダム、右岸側の段丘部がフィルダムとなっている。北海道では美利河ダム、忠別ダムが複合ダムのタイプである。
美生ダムの左岸部の地質は中生代白亜紀の粘板岩・砂岩である。右岸部の地質は粘板岩・砂岩を覆い、第四紀更新世の「光地園礫層」*1と段丘堆積物が分布している。
中生代白亜紀に入る頃、ユーラシア大陸の下に海洋プレートが潜り込み、北海道では「礼文―樺戸帯」と呼ばれる火山活動による島弧が形成された。この島弧の前縁(東側)に生じた前縁海盆に、砂泥の互層が厚く堆積した。この地層が白亜紀のエゾ層群である。
エゾ層群の堆積した前縁海盆の東方には海溝が存在した。この海溝を、陸起源の砂泥や、プレートがもたらした遠洋性堆積物のチャート、石灰岩などが充填した。海溝を充填した地層、すなわち付加体が中の川層群*2である。美生ダム左岸の粘板岩・砂岩の地層は白亜紀の中の川層群である。
一方、第四紀更新世中期の日高山脈の急激な上昇により、源流から多量の砂礫が供給された。この砂礫が下流に堆積し、広い扇状地を形成した。この時できた扇状地礫層が「光地園礫層」であり、指標地の大樹町光地園では90mの層厚がある。扇状地に含まれる礫は、その後の温暖気候下で激しい風化作用を受け、「クサレ礫」(礫はハンマー強打で容易に砕ける)となった。
このように左岸の粘板岩・砂岩は堅固な岩盤であるが、右岸は未固結堆積物のため複合ダムの形式が採用された。
コンクリートダム部の基礎となる中の川層群の粘板岩・砂岩は付加体であり、いわゆるタービダイト相の地質と考えられている。また長い地質年代を経ているため固結度は高く硬質であるが、断層運動や褶曲運動の影響を受けており、粘板岩と比較し、砂岩に開口気味の亀裂が発達している。開口亀裂に起因する透水性の改良は、通常のグラウトで可能な岩盤である。
フィルダム部の基礎となる光地園礫層は、未固結ではあるがよく締まった礫層である。変形係数も100MPa以上の値が得られていた。大局的な礫層の透水係数は水位回復法によれば、10―1m/day程度であり、高い透水性状を示すものではない。しかし局所的に高い透水性を示す場所が存在した。
トレンチの観察の結果、礫層からは顕著な浸透水の流出は認められなかった。局所的に河川水流により形成されたインブリケーション(瓦がさね配列)*3が存在し、目視により礫周辺からの浸透水の流出が認められた。この堆積構造が局所的に高い透水を示す要因と考えられた。
この礫周囲の間隙はグラウトによる脈状注入により、浸透流抑制が可能と考えられた。超微粒子セメントを用いたグラウトが、コア敷全面にブランケットグラウトとして行われた。施工後、礫周辺の水理的弱部には、グラウトが脈状に注入されていることが確認された。また所定の改良効果も得られた。
なお光地園礫層下部に存在する、中の川層群の粘板岩、砂岩互層部には高透水部が存在することから、フィル中心部でカーテングラウトが実施された。
ダム調査時、礫層の性状把握の目的で、右岸部にピットが掘削された。このピットの上部の地層に、インボリューション(凍結凍上による地層の擾乱)*4が見つかった。そのことを耳にしていたので、徳山明先生のお供で、帯広畜産大学構内の十勝坊主(アースハンモック)や然別湖の千畳くずれ(岩塊流)などの道東の周氷河地形の調査の途中、ダムサイトを訪れた。ピット内で地層を観察すると、光地園礫層の上部に、古赤色土、埋没土、支笏1火山灰、恵庭a火山灰が堆積していた。かつて水平に堆積していた火山灰層や埋没土が、凍上や凍結融解により攪拌されて、あたかも地層が躍っているかのように見えたことに深く感動した記憶がある。
*1光地園礫層:70万年前頃、日高山脈は急速に上昇し始めた。上昇する山地から多量の砕屑物が供給され、十勝平野一帯に堆積した。この堆積物を光地園礫層と呼ぶ。十勝平野の段丘を形成する最も古い礫層である。大樹町光地園では約90mの厚さがある。堆積物中の礫は古赤色土を形成するような温暖な時期(間氷期)に著しい風化作用を受け、極めてもろくなっている。ハンマーの打撃で簡単に砕けるため、「クサレ礫」と呼ばれている。
*2中の川層群:日高山脈の東側に幅10㎞、長さ60㎞の規模で南北方向に分布する堆積岩体に与えられた名称。かつて日高帯中部(上支湧別~十勝川上流)、日高帯北部(北見山地)に分布する白亜紀の堆積岩とともに一括して日高累層群と呼ばれていた。
中の川層群は砂岩・泥岩からなる。中の川層群は西側の日高変成帯の近傍では弱い変成作用を受けている。このためダムサイトの泥岩は弱い変成作用を受け、粘板岩へと変化している。
*3インブリケーション:川原の石が水流により一定方向を向く現象。水流の強い場所において、礫の扁平な面が上流に向かって将棋倒しのように傾斜して並ぶ。瓦を並べたように積み重なって配列することから覆瓦構造(ふくがこうぞう)とも呼ぶ。
*4インボリューション:3万2千年前、支笏火山は大噴火し、支笏1火山灰を放出した。この頃、日高山脈に氷河がかかるような寒冷な気候となっていた。十勝平野も周氷河気候となり、水平に堆積していた土壌や火山灰層が凍上や凍結融解が繰り返されることにより、かき乱された。このような現象を周氷河現象と呼ぶ。
型式:重力式コンクリート・アースフィル複合
完成年度:1999年
堤高/堤頂長:47m/350m
総貯水量:949m3
水系名/河川名:十勝川/美生川