41-01 双葉ダムの地質
尻別川支流のぺーぺナイ川には二つのダムが建設されている。一つは農業用の双葉ダム、もう一つは北海道電力京極発電所下部調整池である京極ダムである。両ダムの距離はわずか3.6kmである。双葉ダムはアスファルトフェーシング型フィルダム、京極ダムはロックフィルダムである。
双葉ダムにおいてアスファルトフェーシングを採用した理由について、「農業農村整備事業の技術」の中で、次のように説明している。「堤体材料の内、ロック材は大量かつ容易に採取できる一方で、ゾーン型として必要な遮水材料の入手が困難である。このためアスファルトフェーシングタイプを採用した。」
京極町から倶知安町にかけては、新第三紀中新世から鮮新世にかけての地層が広く分布している。この地域の地質は、金属鉱物炭鉱事業団・金属鉱業事業団による広域調査の結果、下位から定山渓層群、古平層群、倶知安層群、砥山層群、西野層に区分された。双葉ダムと京極ダムの基礎の地質は定山渓層群である。定山渓層群は、岩相や層序関係から道南の新第三紀層の標準地質である福山層に対比されている。
京極町ペーぺナイ川流域には安山岩溶岩と安山岩質火山砕屑岩が分布している。これらの火山岩類は泥岩や凝灰岩も伴っている。定山渓層群の火山岩類は堅硬であり、フィルダムの基礎地質として大きな問題はない。
ダム基礎である安山岩は右岸洪水吐上部の巨大切土のり面下部において余すことなく見ることが出来る。洪水吐流入部から導流部を経て減勢部に至るまで8~10段の切土のり面に安山岩溶岩が露出している。また左岸取水塔取り付け部から堤体にかけても切土による露頭となっている。
しかし、双葉ダムは立ち入り禁止となっており、露頭は言うまでもなくダムと対面することさえできない。このため個人によりドローンを用いてダムが撮影されており、ネット上に公開されている。公開された撮影データは良好で安山岩の詳細な地質状況を判断できる。興味のある方は、そちらを見ていただきたい。安山岩には顕著な破砕帯、断層は認められず、良好な岩盤であることが分かる。しかし垂直方向の節理が開口しているように見える点が気になる。
双葉ダム右岸には幅.8km、長さ2.1kmの巨大な地すべりが存在する。ダム堤体は地すべりのほぼ中央部に設けられている。札幌から京極町にかけての山地には多数の地すべりが存在する。この地域にはキャップロックスライド(北松型地すべり)*1というタイプの地すべりが多数分布することで知られている。国道230号定山渓から中山峠にかけて、このタイプの地すべりが多数分布しており、橋梁などで地すべりを避けながら建設されているが、時折地すべりの活動に悩まされている。
双葉ダムの地すべりは滑落崖が極めて明瞭であることから、古い時代の地すべりではなく、比較的最近形成されたと考えられる。地すべりの規模にすれば極めて小規模であるが、ダム建設に伴い地すべり末端部に切土が施工されている。ダム右岸下流部は地すべり末端の圧縮領域にあたるため、地すべり移動方向に引っ張り応力が発生する。このようなことが考えられるため開口した節理を形成した要因を把握することが重要である。双葉ダムがロックフィルダムであれば大きな問題とはならないが、アスファルトフェーシングのため、注意が必要と考えられる。
ペーぺナイ川河床では安山岩溶岩を覆い、厚さ15m程度の河床堆積物が存在している。河床堆積物の大部分は堅硬な安山岩礫で占められており、細粒分は少ない。ダム最大荷重をかけた平板載荷試験において沈下量も少なく、降伏も認められなかったのであろう。ロックフィルダムの基礎としての問題はないと判断し、表層の緩み部分を除去したのち十分転圧し、堤体が盛り立てられたのであろう。さらに、細粒分の少ない河床砂礫の透水係数は10~1m/day程度と考えられ、十分な排水機能を有していることからも。河床砂礫をダム基礎として利用できると考えたのであろう。双葉ダムは河床部において、この河床砂礫層の上に建設されている。
双葉ダムの直上流には北海道電力により建設された揚水式発電所である京極発電所がある。京極発電所の上部調整池はアスファルトフェーシングフィルダム、京極ダムはロックフィルダムである。京極発電所建設中に京都大菊池宏吉先生のお供で何度か見学させていただいた。京極ダムの下流に双葉ダムがあり、アスファルトフェーシングであることから、上部調整池のアスファルトフェーシングダムに興味があり、じっくり見学させていただいた。妙に興味を持っていることに気付いた菊池先生は、その後川崎市にある東京電力の研究所のアスファルト研究部門を見せて下さった。さらに塩原発電所の上部調整池であるアスファルトフェーシングの八汐ダムも見せていただき勉強になった。
劣化したダム堤体の補修事例が、国総研資料第262号「ダム補修事例に関する調査」に掲載されている。双葉ダムも1例として取り上げられており、詳細な記録が残されている。これを読み不思議に思った点が一つあった。それはマスチック*2の損傷が堤体下部25mに集中し、しかも落水時水位以下にも損傷が存在していたことである。アスファルトに関してはまったく無知であるため、早速アスファルトの専門家である北海学園大学久保先生や北海道大学森吉先生をお訪ねし、ご教示をいただいた。
双葉ダムのアスファルトに生じた膨れやクラックなどの損傷は施工ジョイントから50㎝以内に発生している。国総研の資料では、「施工ジョイントは応力集中の要因になりやすく、温度応力により接着面が疲労することにより微細なクラックが発生し、水の侵入口を生成する。侵入した水はジョイント近傍に滞留し、冬季の凍結融解作用や夏季の水蒸気化がアスファルトに剥離作用をもたらす。」としている。
個人的に双葉ダムで最も印象に残っているのは施工中の導水路トンネルに入れていただいたことである。導水路トンネルは火砕流台地の地下水を有する未固結な地質に建設された場所があり、軟弱かつ帯水地山のため圧気シールド工法が用いられた。シールド内に圧縮空気を送りこみ、気圧を高めることにより、湧水による切羽の崩壊を防止していた。気圧が高くなっており、耳ぬきが必要であった。慣れた人はつばを飲み込むだけで簡単に耳ぬきを行っていたが、私はなかなかうまく耳ぬきができず、大変だった。
双葉ダムは立ち入り禁止となっている。全国的にも珍しいアスファルトフェーシングダムであり、堤体が見える程度は開放してもらいたい。
*1キャップロックタイプ地すべり:第三紀層の泥質岩の上位に溶岩が分布する地域に発生する地すべりをキャップロックタイプと呼ぶ。溶岩には冷却節理が発達するため、雨水は下位の泥質岩に容易に浸透する。この雨水により、泥質岩が風化され、結果的に地すべりが発生する。
イタリアボローニャ大学のアントニオ先生が札幌に来られ、札幌西部山地のキャップロックタイプの地すべりについて3か月間研究された。先生は国道230号薄別橋上部の斜面で発生した地すべりに特に興味を持たれていた。この地すべりの移動速度は極めて緩慢であり、地すべり土塊は2kmの斜面を7時間かけて流下し、薄別橋に達している。溶岩下部の凝灰岩が熱水変質を受けており、この様な形態となった。アントニオ先生を現地にご案内した縁で、後にバイオントダムの地すべりをご案内いただいたことは思い出に残っている。
札幌近郊の空沼岳山頂はキャップロックタイプの地すべりの滑落崖の最上部である。山頂から滑落崖直下に空沼を眺めるができる。空沼は地すべり滑落崖下部に形成された凹地に水がたまり形成された池塘である。このような池塘は札幌西部の山地(例えばペーぺナイ川源流の一つは無意根山西部の地すべりにより形成された池塘である)に多数見ることができる。
*2マスチック:遮水を目的として設けられる表層(密粒度アスファルト混合物)の劣化防止のために設けられる保護層をアスファルトマスチックと呼ぶ。わずか2mmの薄層である。
型式:アスファルトフェーシングフィル
完成年度:1989年
堤高/堤頂長:61m/248m
総貯水量:1,045万m3
水系名/河川名:尻別川/ペーぺナイ川