42-01 古梅ダムの地質
北海道東部には阿寒・屈斜路火山から放出された火砕流堆積物が広く分布している。屈斜路カルデラ形成に係る火砕流の中で最も古いものが古梅溶結凝灰岩である。屈斜路火山は古梅溶結凝灰岩の噴出に始まり30万年の歴史がある。屈斜路カルデラの形成は4万年前とされている。屈斜路カルデラは東西26㎞、南北20㎞の規模を有する世界でも最大級のカルデラである(現在の屈斜路湖の湖水面積の2倍の規模)。
古梅溶結凝灰岩は屈斜路カルデラの外輪山である藻琴山の東西に分布している。古梅ダムは。美幌川上流に分布する西部の古梅溶結凝灰岩上に建設されている。
ダムサイトではダム基礎岩盤である古梅溶結凝灰岩の状況を十分観察できない。溶結凝灰岩の冷却節理や岩石の強度を確認するのにふさわしい場所は、かつて大規模に稼行された古梅軟石*1の採石場跡である。美幌町古梅地区*2には古梅軟石の採取跡地が多数ある。この軟石は土台石や倉庫の材料などに多用された。戦前には海軍航空隊美幌飛行場の基礎の割栗石として多量に使用されたようで、当時は多数の労働者が現地で働いていたという。
古梅ダムは日新ダムやしろがねダムと異なり、堤体直下に第四紀の未固結堆積物は存在しない。したがってダフィルム基礎としての地質的な問題点は、変形係数が1,000MN/m2程度ある基礎岩盤の強度ではなく、高い透水性を示すことの多い溶結凝灰岩中に存在する冷却節理*3である。特にコア部基礎においては岩盤の不透水性に重点が置かれることからも、冷却節理の性状を把握しておくことが重要である。
古梅軟石採取場跡地において、地表近くと深部では、節理の間隔に大きな違いがあることに気づかれたであろうか。地表近くと岩体内部では柱状節理の数に大きな違いがあり、地表近くの溶結凝灰岩は多節理であるが、岩体内部では節理の数が少ない。このような現象は溶結凝灰岩において一般的に認められる現象であり、古梅ダムサイトにおいても同じである。
河床部は亀裂の数が少なく連続性に乏しい。一方左右両岸は亀裂の数が多くしかも連続性に富んでいる。これらは溶結凝灰岩の形成に係る現象である。このような地質現象について、残念ながらあまり考慮されない。古梅ダムにおいても浸透流解析(多孔質体の浸透流として解析)が行われているが、河床部の断面において行われ、その結果により評価を行っている。この解析結果は、左右両岸の亀裂が多く、しかも連続性の高い断面における解析結果とは異なるであろう。他の溶結凝灰岩上に建設されたダムにおいても、柱状節理の形成に係る条件に配慮した解析が行われている例は少ない。
古梅ダムでは溶結凝灰岩をダムの堤体材料*4として利用しているが、その使用方法は難しいようである。軟岩の使用にあたり、フィルダムの設計基準では、①破砕して土と同様に扱う、②他の土と混合して用いる、としている。また空気や水に触れにくいランダムゾーンに置くのが望ましい、と指摘している。さらに、空隙を埋め、密な状態にすることにより風化に対する抵抗性を増すことから、破砕試験の重要性を示している。
岸洋一ら(1976)は泥岩と古梅溶結凝灰岩を用いて突き固め試験を行っている。ただし通常のつき固め回数と異なり、最大300回まで突き固めを行い、両者の相違を比較検討している。
それによれば、乾燥密度はいずれの試料においても、突き固め回数の対数に比例して増加している。一方破砕量の増加分については、泥岩では突き固め回数100回を境にほぼ一定となっている。しかし溶結凝灰岩では300回に至ってもさらに増加の傾向にあった。
彼らは破砕量と締固めエネルギーの関係から、溶結凝灰岩においては締固めエネルギーがある値を超えると、破砕効果が減少することを示した。当初は岩塊の破砕にエネルギーが費やされるが、破砕粒子が礫の間隙を埋めるに従い、破砕粒子が緩衝材の役割を果たし、締固めエネルギーが大きくなるに従い、破砕効率が低下することを指摘した。
この指摘は、いわゆる粉砕理論で示される「充填粉砕」に相当すると考えられ、極めて重要である。すなわち巻き出し厚によっては、巻き出し下部まで破砕が及ばない場合が発生しうることを示している。この場合、層ごとの破砕が不均一になり、透水性に異方性が生じうる。
農業用ダムの中で古梅ダムはウエルカムが感じられる数少ないダムである。国道からの分岐点には案内板がある。ダム手前にゲートがあるが、進入禁止ではなく鹿よけである。各自が責任をもって開け閉めする仕組みになっている。ダムサイトには駐車場も展望台もある。「国営かんがい排水事業女満別地区事業概要」の案内板があり、門外漢にもダムの目的がよく理解できる。ダム天端にも立ち入りができるので、洪水吐の形式などを他ダムと比較すると興味深い。
*1古梅軟石:美幌町古梅地区に美幌川に合流する石切川がある。「石切」の名称が示すように、かつてこの場所には「古梅軟石」を採掘した採石場が多数存在した。古梅軟石の採石場は国道243号から入る新宮林道沿いで最もよく観察できる。古梅軟石は古梅溶結凝灰岩から採取されている。
軟石として古くから知られているのは「札幌軟石」であり、支笏溶結凝灰岩から採取されている。古梅軟石は札幌軟石とほぼ同等な性質を有している。
軟石採掘場で溶結凝灰岩の観察が終了し、美幌川と石切川の合流点に戻る。そこには道路わきに水天宮の碑が建立されている。碑のそばには古梅溶結凝灰岩でできた古びた導水路がある。導水路を辿ると終点に発電所の跡が残されている。この発電所は古梅で製材業を営んでいた新宮商行が所有し、発電を行っていたそうだ。
*2古梅地区:美幌峠への入り口。フルウメ(古梅)は美幌町内でわずかに残るアイヌ語地名の一つ。ここにあった湧水につけられた名で、フーレ・メム(赤い・湧水池)のなまったもの。(「更科源蔵アイヌ関係著作集第6巻アイヌ地名解」による)
ちなみに古い陸地測量部の地形図には、国道243号のチェーン着脱場当たりに、美幌川の支流としてフーレメム川が記載されている。
*3冷却節理:板状の岩体の冷却節理の代表が柱状節理である。固結した火砕流堆積物が冷えるとき、温度低下とともに体積が収縮するため、収縮割れ目が形成される。つまり冷却節理は収縮による引っ張り応力の解放である。通常は冷却面に垂直方向に発達する。岩体の表層付近では冷却速度が速いため、節理の数が多くなる。それらの節理の何本かが深部に向かって成長するため、内部では亀裂の数は少なくなる。すなわち、岩体の表層では細い柱が多いが、内部では太い柱が多くなる。冷却節理については溶岩でよく研究されており、ある溶岩流の表面付近では節理幅が10cm~20㎝であるが、中心近くでは50cm~100cmとなり、表層と内部では節理の数に大きな相違がある、と報告されている。
*4堤体材料:旭川空港の盛土にも多量の十勝溶結凝灰岩が使用されている。私事であるが、旭川市の依頼により、岩石試験、凍結融解試験を実施したこと、また盛土の施工状況をつぶさに見学させていただいたため、思い入れの深い岩石材料である。
型式:ロックフィル
完成年度:1996年
堤高/堤頂長:48m/215m
総貯水量:350万m3
水系名/河川名:網走川/石切川