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47-01 幕別ダムの地質

 幕別ダムは帯広市東部の幕別台地に建設されたダムである。幕別台地の地質は、第四紀更新世の長流枝内層である。長流枝内層は砂岩やシルト岩からなるが、続成作用が進んでいないため、低い固結度と高い透水性が特徴である。

 長流枝内層はダム基礎として、低い岩盤強度、スレーキングによる劣化、パイピングの可能性、さらにグラウトによる高透水性岩盤の改良が困難なことなど、解決すべき地質上の問題が数多く存在した。道内には同時代の地層上に建設されたダムとして美利河ダムがあるが、様々な困難を克服し建設されている。

 また、幕別台地の西縁が新しい居辺断層で区切られていることに象徴されるように、この地域は、幕別台地の隆起、日高山脈の上昇など、新しい時代に活発な地殻変動を受けた場所である。幕別台地には第四紀更新世中期から後期に形成された何段もの段丘が認められる。このような段丘は更新世における幕別台地の上昇により形成された。幕別ダムはこれらの段丘を開析して流れる稲志別川に建設された。したがって、ダム計画にあたっては、新しい時代の地層の変動をも考慮しなければならなかった。

 幕別ダムのように、長流枝内層といった粗粒堆積物を主とする未固結~半固結の地質をダム基礎とする場合、主な問題は未~半固結岩盤の強度や透水性にあり、これまで種々な工法が用いられてきた。河床部の未固結堆積物上に建設された道内のダムには、日新ダム、しろがねダムがあるが、止水工法として地下連続壁やグラウト工法が採用されている。

 幕別ダムの基礎処理としてグラウトは採用されなかった。長流枝内層が10~10-1m/dayと高い透水性を示すことから、厚い半固結層の止水処理工法として優れたアースブランケットが採用された。また浸透流量の抑制を図るため、仮締切下部に地下連続壁が設置された。詳細については触れないので、文献をあたっていただきたい。

 ここでは幕別ダムで特に検討を要した活断層と仮排水トンネル掘削により緩んだ地山の改良工法について述べる。

 まず活断層であるが、稲志別川に沿って、ダム軸に直交する活動度Ⅱの「稲志別断層」が「日本の活断層」に記載された。認定理由は、稲志別川を挟み、上更別Ⅰ面と称される段丘面に15mの高度不連続が認められる、ということであった。ダム軸上に活断層の存在が指摘され、その検証が必要となった。

 活断層調査は「仕事納め」の最中に電話で依頼された。酔っていたため簡単に引き受けたたが、後で大変な仕事であることが分かり後悔した。新年早々十勝平野を歩いた。雪も少なく調査は順調に進んだ。ダムサイト付近に活断層を示唆する現象は認められなかった。空中写真を用いた地形判読により幕別台地に認められる4段の段丘面を区分し、活断層による同一段丘面の高度変位を調べたが、有意な段丘面の変位は認められなかった。

 困り果て、最初から考え直そうということで、国土地理院から過去の地形図を取り寄せ、切峰面図を作り始めた。数枚の切峰面図を作成したところ、ふと古い地形図と最新の地形図では、切峰面図が異なることに気づいた。活断層であれば上更別Ⅰ面と呼ばれる段丘面が稲志別川を挟み、15m変位していることになる。変位を確認するために、地形図に基づいて断面図を作成した。最新の地形図では、上更別Ⅰ面は、稲志別川左右両岸において同じ標高であり、変位は認められない。しかし古い地形図では左右両岸の上更別Ⅰ面に15mの標高差が認められた。「日本の活断層」は、この古い地形図に基づいて評価がなされたと推定した。

 そこで稲志別川流域で水準測量を行った。この時、国土地理院在籍時にしごかれて会得した測量技術が役立った。稲志別川の両岸で水準測量を実施したが、川を挟む段丘面に標高差はなかった。「日本の活断層」が指摘した上更別Ⅰ面の15mの変位は観測されず、「ダム軸に活断層による変位は存在しない」という結論に達した。

 「日本の活断層」に掲載された断層が存在する可能性は極めて低いこと、さらに活断層と推測される結果になった理由も明らかにできた。このデータを携えて土木研究所に報告に行った。相手は国土地理院時代に厳しい上司であったE地質官である。この調査結果でE地質官に納得していただけるか不安であったが、レポートの出来は95点とおっしゃられた。5点の減点理由もEさんらしかった。公務員生活をEさんの部下としてスタートし、ようやくここまでたどり着くことができたか、と感慨深かった。

 新第三紀鮮新世から第四紀更新世にかけての砂岩は、水は通すがセメントは通さず、グラウトによる改良が困難であることは、よく知られていた。このため、従来ベントナイトセメントや超微粒子セメントなどによる改良がおこなわれてきた。

 幕別ダムにおいて、仮排水トンネルの施工により生じた地山の緩みが水道となる可能性があり、この緩み領域に対して、どのように対処するかが問題となった。幕別ダムにおいては、高透水の基礎岩盤の止水方法として、グラウト工法は採用されていない。このため、覆工背面の緩みゾーンをいかに改良するか、また改良効果をどのような手法で確認するか、が問題となった。

 第四紀更新世の未固結砂岩層の止水方法として、超微粒子セメントに少量のカオリンを添加し、さらに混練り後に超音波振動をかけることにより、低圧での浸透性が著しく高まり、止水効果が発揮されることが報告されていた。仮排水トンネル周囲の岩盤の緩みに対する工法として、この注入工法を採用した。

 注入効果についての従来の評価方法は、チェックボーリングによる、注入前後の透水性の変化に着目するものである。この手法では、注入孔間の精密な2次元的な情報は得にくいこと、また岩盤の物性値の改良度合いも評価できないため、どのような手法を採用すればよいか、悩まされた。たまたま、ある公団の関連団体に、従来の計測装置と異なり、送・受信を行うボーリングの孔間が離れていても調査可能な特殊な電磁波探査装置があると教えられ、借用の依頼に行った。国内に2台しかない貴重な機器にもかかわらず、快く貸与していただいた。この装置を用いて注入状況の調査を行った結果、グラウトはトンネル周辺の岩盤にまんべんなく注入され、しかも岩盤物性値の改良も確認することが出来た。心配していたトンネル掘削による地山の緩みも、注入により改良されたことがわかり、ホッとした。

 この注入手法は、土木研究所フィルダム室長(当時)山口嘉一さんが行った特別講演「ダム基礎グラウチングにおける技術的課題」(ワークショップ:グラウチング注入技術の課題)において評価いただいた。

型式:アースフィル

完成年度:2004年

堤高/堤頂長:27m/335m

総貯水量:230m3

水系/名河川名:十勝川/稲士別川

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