21-11 下流上がりの凝灰岩薄層
現場工事課長から至急の連絡が来た。概ねこのような時は、良い話である筈はない。内容は基礎岩盤掘削時に凝灰岩の薄層が出現したため、地盤検査時の対応をどうするかであった。掘削現場を確認すると堤体下流の基礎岩盤浅部には広範囲に薄層が認められ、未固結の状態であった。噴火による火山灰が海中で堆積したものと思われる。しかも、その薄層は下流上がりの傾斜である。現在、その凝灰岩層を確認することはできないが、上位にある同様の海中で堆積した凝灰岩層は堤体左岸側の貯水池付近にもある。透水性の違いによる地下水面からの滲出を観察することができる。
知内ダムはフィルダムとして調査、設計が進められてきたが、農水省から新たな特別会計制度に該当させる新規地区を選定せよとの指示から、コンクリートダムであれば、工期を短くすることで該当させれるとの判断がなされた。全体実施設計(全計)の取りまとめはフィルダムであったが、実施時はコンクリートダムとなったのである。全計から事業の着工扱いとなるので、本来は計画変更もしくは再度法手続きを実施すべきところ、超法規的措置が行われた。誰がフィルダムとコンクリートダムの工事費は同じと判断したのだろうか。仮に当初からコンクリートダムであれば、堤体基礎の弱層を見過ごさなかったかもしれないが、フィルダム前提の調査では送水ボーリングにより弱層を流亡させてしまっていた可能性がある。
問題は、既に堤体の一部は打設されており、下流面にはトレッスルガーダーの橋脚が設置されていた。下流上がりの弱層は、上流側からの水平震力により堤体の設計安全率を下回る可能性があるため、掘削可能な部分は除去するとして、堤体下部にある弱層に対しての安全性を確保する必要が生じた。
弱層の強度は、近視眼的な針貫入試験では評価できず、現場で重機荷重によるせん断試験を実施し、凝灰岩層を挟む岩体としての強度を得た。安全性の評価方法は本州の旧建設省ダム事例を参考に、堤体上流の基盤面から弱層に至る想定破壊線と弱層による滑り線を設定、安全率が下回ったブロックは人工基盤によりせん断強度、せん断長を確保した。打設した堤体と人工基盤の一体化は鉄筋を配置して一体化を図った。設計単位重量2.35t/m3の変更は行わなかったが、購入骨材が玄武岩であったため施工実績値は2.40t/m3を上回り、安全側に機能したことに気分的には救われた。
特別会計制度は、事業の早期完了を目指すことが必須であるため、現場の長期休止は許されない。河川管理者側のダム技術センターで勤務された経験を持つ技術者との間で厳しい協議が続いた。北海道農業用ダム委員会長の指導も得ながら、水平震力は人工基盤を含めた堤体には作用させるが、想定破壊線内の岩盤は周辺岩盤と同様に挙動することから水平震力を作用させないことで最終的に評価した。
特別会計制度による重点的な予算配分とコンクリートダムの施工性により、凝灰岩薄層案件は工期に大きな影響を与えること無くダムは完成した。しかし、地元同意を得た事業費では収まらず、さらに特別会計の金利負担も重なり地元負担が増嵩してしまった。良かれと判断して導入したこの事業制度は、この後、一般型事業の地区完了ができないほど地元との大きな軋轢を生むきっかけとなった。