22-01 しろがねダムの地質
美瑛町の中心部から道道966号十勝岳温泉美瑛線を南東方向、白銀温泉に向かうと、道路の両側の丘は白樺の林となる。この白樺の林は1926年(大正15年)5月24日の十勝岳噴火により発生した泥流の上に育ったものである。美しい白樺林が道路沿いに続くため、この道は白樺街道と呼ばれている。
白樺街道には、神秘的な青い色で知られる「青い池」がある。2012年にAppleのMac OSの壁紙として採用されて有名となり、美瑛を代表する観光スポットとなった。「青い池」は自然と人工物が生み出した偶然の産物である。十勝岳の火山泥流を防ぐため美瑛川にブロック堰堤を設置したところ、偶然そこに水がたまり、現在の「青い池」が生まれた。脚光を浴びる「青い池」のそば、わずか1㎞の場所に、しろがねダムはひっそりと佇んでいる。十勝岳を遠望する素晴らしい景観にもかかわらず。
しろがねダムは日新ダムに引き続き着工されたダムである。しろがねダムは日新ダムと同様の地質条件にあり、溶結凝灰岩と未固結堆積物上に建設された。しかし未固結の河床砂礫層の厚さが20mほどあった。この砂礫層の対策方法としては、日新ダムにおける地中連続壁工法とは異なり、グラウト工法が選択された。これまでは砂礫層のような高透水性地盤のグラウトによる改良は困難であると考えられてきた。しかし近年、注入工法や注入材料の進歩により、砂礫層のような高透水性地盤の改良も可能であると考えられるようになった。注入工法や注入材料の進歩のほかにも、幅広い改良ゾーンを設けることなどの工夫も行われるようになり、しろがねダムにおいてはグラウト工法が採用された。
しろがねダムにおいて日新ダムのような地下連続壁工法が採用されなかったのは以下の理由があったとされている。すなわちコンクリート連続壁の弾性係数が河床砂礫層の弾性係数と著しく異なっており、両者の弾性係数の違いから、基礎の不動沈下による堤体における亀裂の発生や施工継ぎ目の漏水処理などの不安があったからである。
しろがねダムは溶結凝灰岩という高透水性岩盤の上に建設された。さらに河床砂礫層の止水工法としてグラウト工法が採用された。このため、ダム周辺の地下水挙動を38孔の観測井により監視している。ダム右岸側の岩盤が左岸側のそれと比較し透水性が高いことから、右岸グラウトライン上流側地山から下流側地山にかけて、さらに堤体下流中央部まで多くの観測孔が設置されている。
これらの観測孔において観測された地下水変動、さらに貯水位の変動および降水量のデータを用い、時空間クリギングにより、しろがねダムにおける地下水変動の空間的な把握を行った*1。結果は以下のとおりである。
試験湛水時の貯水位上昇による地下水位の変化を見ると、左岸側尾根部はもともと地下水位が満水位より高く、貯水の影響をほとんど受けていない。一方、右岸側は本来地下水位が低いため、貯水の影響を受け、ダムの中心より山側500m付近まで30m以上の水位の変動が認められた。
次にグラウトの効果について、グラウトラインの下流側は、グラウトの効果により、上流側と比較し地下水位の変動は小さい。左岸側ではグラウトライン下流側の地下水位の上昇は2~3m以下と極めて小さな値である。右岸側ではグラウトライン下流側の地下水位の上昇は最大25mあった。地下水位はグラウトライン上流側より数m~10mほど低くグラウトの効果は認められる。
左岸に比較し、右岸側の地下水位は貯水位に影響されて変動している。グラウトラインに最も近い下流側観測孔は、貯水位とほぼ一致した変動を示す。また湛水試験中の一定水位保持時に豪雨があり、この影響による地下水位上昇が下流に向かう状況が顕著に認められた。右岸グラウトライン下流側の観測孔において5m以上の顕著なパルス状の地下水位の上昇が認められた。地すべりの安定解析を行う者にとって、この短期の地下水位上昇量は極めて大きな値である。このことは豪雨時には、右岸の地山や場合によっては堤体盛土の安定性に注意が必要であることを示している。なお左岸側は豪雨による地下水位の変動は認められなかった。
*1:ダムサイト周辺の地下水変動は、時間と空間の両方において変動するデータである。観測データから精度よく地下水全体の挙動を把握するためには、確率論に基づいた統計的な手法が有効である。ここでは貯水位と降水量を変動の影響因子と考え、これを表現する時空間モデルを作成し、地下水位変動を推定した。推定精度の検証は、各観測孔のデータを1か所ごとに入力データから除いて、その位置の地下水変動を推定するブラインドテストにより行った。任意時間における地下水位の空間分布を推定したところ、グラウトによる改良効果や貯水位の変動に伴う地下水位の空間的分布の変化を把握できた。(土木学会論文集No.659:ダム周辺地下水位変動の時空間解析のための時空間Cokrigingの開発と適用:2000.1)