05-01

05-01 卯原内ダムの地質

 能取湖畔の卯原内はサンゴソウの群落で有名である。正式名称はアッケシソウであるが、9月に紅葉して赤く染まり、サンゴのように見えることからサンゴソウと呼ばれている。秋晴れの青い空と紅の絨毯のコントラストが絶景を生み出している。このサンゴソウの群落地、能取湖に流れ込む川が卯原内川である。これより6㎞上流に卯原内ダムが建設されている。

 能取湖周辺の地質は、下部から緑色岩(玄武岩質溶岩)・輝緑凝灰岩(玄武岩質ハイアロクラスタイト)・チャートからなる仁頃層群(ジュラ紀~白亜紀)、シルト岩・頁岩・砂岩からなる常呂層(新第三紀中新世)、シルト岩・砂岩からなる車止内層(新第三紀中新世)*1、砂岩・礫岩・安山岩溶岩からなる網走層(新第三紀中新世)、頁岩からなる能取層(新第三紀中新世)、シルト岩からなる呼人層(新第三紀中新世)、砂岩・礫岩からなる美岬層(新第三紀鮮新世)から構成されている。

 仁頃層群と車止内層の関係は、卯原内ダムより更に上流の卯原内川において観察できる。この露頭では車止内層が仁頃層群を不整合で覆っている。この露頭の車止内層はシルト岩であるが一部に細粒砂岩の薄層を含んでいる。卯原内川を下流方向にダム付近まで移動すると、車止内層は薄い砂岩層をはさむ塊状シルトとなっている。波浪の影響を示す堆積構造が認められないことから、陸棚で堆積したと考えられている。

 卯原内ダムの基礎岩盤は砂岩を伴う無層理のシルト岩からなる車止内層である。右岸の一部には未固結の屈斜路火砕流堆積物が車止内層を覆って分布する。

 卯原内ダムが建設されている常呂丘陵には波長1㎞程度の小規模な緩い背斜・向斜の繰り返しが認められる。褶曲軸は北東―南西方向の軸を持つ。褶曲翼部の傾斜は20°以下である。この褶曲構造は常呂層上部および車止内層の地質構造に影響を与えている。卯原内ダムの河床部は、この褶曲構造の背斜部にあたっている。このため河床中央部には褶曲に伴う引っ張り亀裂が集中している。河床中央部に深部まで認められる高透水ゾーンはこの引っ張り亀裂がもたらしたものである。高透水ゾーンの方向は褶曲軸方向、すなわちダムの上下流方向のため、止水処理が必要である。

 この高透水ゾーンに対する検討は浸透流解析により行われた。その結果、基礎処理の深度については30mで良いとされた。

 常呂丘陵西部には平和―福山断層が存在するが、この断層と直交する北西―南東方向の卯原内断層も存在する。卯原内断層は左横ずれの成分を示すが、変位量は少ない。しかし断層形成に伴う幅広い破砕帯が存在する。卯原内ダムサイト右岸および河床部において確認された2条の断層は卯原内断層に関連するものである。

 右岸部の断層は卯原内断層と考えられる。河床部の断層は卯原内断層の派生断層である。

 卯原内断層は幅の広い断層破砕帯を伴っている。破砕帯は断層粘土を挟在するとともに、深部まで褐色風化が進んでいる。このことは断層破砕帯において地下水の流動が生じていることを示唆している。特に断層上盤側の地山は透水性が高いようである。この断層はダム上下流方向に分布することから、遮水工の施工方法について検討が行われた。

 河床部の派生断層は幅が1m程度であり、顕著なものではないと考えられる。破砕部が存在するが、断層自体は小規模であり、ダム基礎として大きな問題がないと判断された。

 卯原内ダムにおいては岩盤等級に係るデータとして静弾性係数がある。未風化岩盤の静弾性係数は1,000MN/m2~2,600MN/m2であった。堆積軟岩においては、CM級岩盤の静弾性係数の下限値は1,000MN/m2程度と考えられていることから、卯原内ダムの基礎岩盤の岩級等級はCM級と考えてよい。したがって特別の地質現象が認められない限り、フィルダムの基礎として問題はない。

 右岸の一部には未固結の屈斜路火砕流が分布し、火砕流下位の車止内層の風化が著しい。右岸の地山は、風化や卯原内断層により形成された破砕帯による岩盤強度の低下、さらに風化帯や破砕帯における高透水性が懸念される状況であった。一方、左岸は右岸と比較して風化帯も薄く、岩盤も良好であったことから、当初洪水吐を右岸に設置する計画であったが、左岸に変更となった。この変更は、後述する地すべりの発生から見ても適切な対応であった。

 卯原内ダムでは写真判読により、湛水地内に9か所の地すべり地形が認められる。右岸において、のり面施工時に地すべりが発生した。この場所は断層破砕帯に続く斜面であり、比較的不安定な斜面の一部が、切土の施工により移動したと見ることが出来る。

 発生した地すべりのすべり面をトレンチで見る機会があった。地すべりは褐色の風化岩盤内で発生しており、すべり面は紙一枚にも満たないものであることに驚いた。もちろん初生地すべりゆえに地すべりに特有なすべり面粘土も存在していない。このような初生的な地すべりでは、ボーリングのコア鑑定によるすべり面の判定は極めて困難であることを改めて認識した。

 この地すべり対策として、頭部排土が計画された。安定解析は通常行われる地すべり中央断面における安定解析のほか、準3次元の安定解析も行った。当然想定されるように準3次元の安定解析のほうが、安定度は高く評価される。

 地すべり頭部の排土は片側から反対側に向かい少しずつ行なわれた。通常の安定解析で必要とされる排土量の約70%の時点において、地すべり土塊は安定した。この排土量は準3次元の安定解析による必要排土量に相当する値であった。通常の地すべり安定解析結果はかなり安全側となることを頭では理解していたが、実際に現場で体験すると驚きであった。

 卯原内ダムへは網走から国道238号を西に走り、道道591号喜多山卯原停車場線との交点の50m先で左折する。ダムまでは6kmである。ダム天端は立ち入りできるが、貯水池周囲の道路は立ち入り禁止である。

 ダム手前1㎞の場所に、網走西部地区資源保全協議会が「北ほたるの里」を設置している。ホタルの時期には、沢沿いの雑木林に遊歩道が設けられ、夜間には足下を照らす照明も灯され、市民が鑑賞しやすいようにしているそうだ。

 北ホタルの里も良いが、卯原内は鉄道ファンには見逃せない場所である。旧湧網線の卯原内駅跡地が卯原内交通公園として整備されている。旧卯原内駅のホームも残され、9600型蒸気機関車が動態保存されている。バスターミナル2階には網走鉄道記念館があり、湧網線の資料が展示されている。

*1常呂層・車止内層:仁頃層群を不整合で覆う新第三紀の地層。岩相の類似から、常呂層の上部は車止内層に対比されるとされてきた。しか2018年(平成30年)に刊行された「網走地域の地質」においては、両地層が連続しないことから、同一地層として扱うには根拠が不十分とし、常呂層と車止内層を別の地層として扱っている。本文はこの調査結果に基づき、両層は別の地層として記述している。

 なお卯原内ダムは5万分の一地質図幅「女満別」内にあるが、この図幅は未刊行である。ダム近傍の地質を詳しく知りたい方は産総研「20万分の一シームレス地質図」を参照のこと。

型式:ロックフィル

完成年度:2002年

堤高/堤頂長:41m/355m

総貯水量:400万m3

水系名/河川名:卯原内川/卯原内川

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