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15-01 神居ダムの地質

 神居ダムは、ダムマニアの間で難攻不落なダムとして有名である。ダムへのアクセスルートがいずれも閉鎖されているためである。

 神居ダムの基礎岩盤は、海洋プレート起源の岩石からなる。ダム基礎岩盤の主要な部分は、深海底の火山活動による玄武岩や玄武岩質火山砕屑岩からなる。これらの岩石は、ごく弱い変成作用を受け、緑色の鉱物が生成し、肉眼で緑色に見えることから、かつては緑色岩と呼ばれていた。緑色岩のなかで、火山砕屑岩起源の岩石(とくにハイアロクラスタイト)が輝緑凝灰岩と呼ばれていた。このため神居ダムにおいて、当時の地質図は緑色岩、輝緑凝灰岩として記載されている。

 近年、地質学の分野においては、緑色岩や輝緑凝灰岩の名称を使用しないこととしている。このため最近の地質図では、海洋プレート起源の火山活動の産物は、玄武岩、玄武岩質火山砕屑岩と記載される。玄武岩や玄武岩質火山砕屑岩と記載されると、良好な岩盤と思い込みがちである。しかし中生代の玄武岩質火山砕屑岩は、大きな地殻変動を受け脆弱となっていることが多く、特に注意が必要である。

 工学の分野では、玄武岩、玄武岩質火山砕屑岩より緑色岩、輝緑凝灰岩のほうが、岩盤の工学的イメージ、すなわち岩盤の特性を想定しやすいことから、ダムやトンネルの岩盤分類では、緑色岩、輝緑凝灰岩の名称が現在も引き続き用いられている。

 緑色岩は単に緑色の石という意味だけでなく、低温の変成作用を受けた苦鉄質岩石と、古生代から中生代にかけて生成した岩石という二つの意味が含まれている。地質分野において緑色岩、輝緑凝灰岩の名称を使用しなくなったことは、岩盤を工学的に取り扱う者にとって残念である。

 神居ダムの基礎には輝緑岩、輝緑凝灰岩以外にも、深海に降り積もったプランクトン起源のチャート、泥岩起源の粘板岩もあり、主に右岸アバット部に分布する。これらの地層は、プレートの動きにより海溝を充填した付加体であり、日高累層群の一部である。これらの地層は北海道の中生代を象徴する地質である。

 ダム基礎岩盤が中生代の地質の場合、しばしば粘板岩が登場する(例えば美生ダム)。粘板岩は泥岩がごく弱い変成作用を受けることにより劈開が発達し、薄く板状に割れやすい性質を有している。粘板岩は厳密には変成岩であるが、再結晶の程度が弱く堆積岩として取り扱うこともある。緑色岩も変質の程度から言えば、粘板岩と同じレベルである。

 緑色岩、輝緑凝灰岩は弱い変成作用を受けているため、通常は難透水性の岩盤となる。神居ダムの基礎岩盤の透水性は、アバットで20m以深、河床で10m以深は、2ルジオン以下であり、難透水性の岩盤であった。

 まだほんの駆け出しの頃、このダムの調査に関わった。特に記憶に残っているのは、地質の複雑な右岸で行われた原位置ブロックせん断試験である。ブロックせん断試験は、岩盤上にコンクリートブロックを打設し、ブロックを介して直下の岩盤をせん断し、せん断強度を求める試験である。試験ブロックを打設する部分は、浮石を除去し、大きな凹凸がないように手掘りにより仕上げる。何事も経験と、邪魔だったのかもしれないが、岩盤の整形に参加させていただいた。コツコツ岩盤を整えていく過程は、亀裂の性状を把握する作業でもあり、とても面白かった。また原位置せん断試験にも立ち会わせていただき、せん断試験の急所を学んだ。神居ダムでの貴重な体験は、他のダムにおけるせん断試験のデータを読み解く上での力となり、大いに役立った。

 国道452号芦別市幌内~美瑛町五稜間の旭川側未開通区間は五稜道路と呼ばれている。かつて五稜道路の計画ルートは神居ダムの近傍を通過していた。このため、調査で何度か訪れることがあったが、ルートが右岸高台の十勝溶結凝灰岩上に変更されたため、神居ダムを訪れる機会もなくなった。国道のルート変更理由は、ダムサイト上流に広範に蛇紋岩が分布し、斜面安定に多大なコストがかかること、さらに維持管理上の困難も想定されたためである。神居ダムは、この蛇紋岩を巧みに避け、絶妙な位置に設けられている、と言っても過言ではない。

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