30-01 当麻ダムの地質
上川盆地の東部には、沖積平野から突出した丘陵状の地形がところどころ存在する。丘陵の表層は溶結凝灰岩や溶岩で覆われていることが多いが、その下には中生代に形成された地質体が存在する。この地質体は海洋プレートが大陸下部に沈み込む際につくられた付加体であり、日高累層群当麻層と呼ばれている。当麻層は泥岩の基質中に緑色岩、石灰岩、チャートなどからなる岩体がランダムに混在している。強い変形を受けており、メランジュと呼ばれる特徴的な岩相を示す。このような地質体は付加コンプレックス*1と呼ばれる。当麻ダムは当麻コンプレックスと呼ばれる岩体上に建設されている。類似の地質上に建設されたダムとして神居ダムがある。
当麻ダムの地質は緑色岩、特に輝緑凝灰岩よりなる。これらは海洋プレート起源の岩盤であり、ごく弱い変質を受けて緑色に見える。また一部に深海底に降り積もったプランクトン起源のチャートを含んでいる。
当麻ダムと神居ダムは同じ起源をもつ輝緑凝灰岩に建設されている。神居ダムが重力ダムであることからも明らかなように、当麻ダムの基礎地質はフィルダムの基礎として強度上の問題はない。また弱い変質作用を受けていることから、通常は難透水性の岩盤である。左右両岸では深度20m以深、河床では10m以深は2Lu以下となることが多い。この様な状況から当麻ダムにおいては遮水工としてコンクリート心壁*2が採用されたのであろう。
当麻ダムは1959年(昭和34年)に完成した。近年ダム流域内の開発や増加傾向にある降雨量の影響により洪水の流出形態が変化している。このため、安全な洪水の流下能力を確保するため、洪水吐の改修が行われた。改修は農地防災事業として、2007年(平成19年)から2017年(平成29年)にかけて行われた。施工は洪水吐の新設、既設洪水吐の撤去、既設洪水吐撤去部の再盛り立ての順序で行われた。取水施設の移設も行われた。改修により洪水流下能力が毎秒141m3から毎秒268m3と以前の約2倍となった。
今回の改修にあたり、コンクリート心壁の一部が除去されている。土質材料とコンクリート材料という特性の異なる材料の境界部が、施工後長年月を経て、どの様に変化しているのか極めて興味深い。なぜなら、複合ダムにおけるコンクリートとフィルの接合部の挙動についての知見を得ることの出来る良い機会であった。残念ながら、改修工事に関わる論文には、コンクリート心壁はワイヤーソーで切断し、新堤体となじみをよくするためにチッピングを施した、としか記載がない。
当麻ダムの地質は緑色岩およびチャートを主としており、貯水池周辺に地すべりは存在しない。極めて小規模の地すべりがダム右岸の地山に一か所認められが、ダムには影響しない。
当麻ダムに至るには、道道140号愛別当麻旭川線を北上する方法と旭川紋別自動車道愛別ICを利用する方法のいずれかである。当麻ダムは愛別IC近傍にあるので、こちらの利用が便利である。ただし、改修後ダムサイトは農業用ダムお決まりの立ち入り禁止になってしまった。極めて残念である。道路からのチラ見はできる。
JR当麻駅から道道1114号当麻上川線を8㎞程走ると、当麻鍾乳洞がある。鍾乳洞の入り口には高さ20mほどの石灰岩の崖があるが、昭和32年(1957年)、この石灰岩の採掘中に鍾乳洞が発見された。当麻鍾乳洞は北海道では最も貴重な鍾乳洞であり、北海道の天然記念物となっている。鍾乳洞は当麻コンプレックスに含まれる石灰岩の溶食により形成された。カタクリの群生で知られる突哨山*3の地質も付加コンプレックスである。
*1付加コンプレックス:海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込む際、海洋プレートの一部と海溝に堆積した砂岩、泥岩が一緒になり、陸側プレートに付け加わった岩石の集合体を付加コンプレックスと呼ぶ。付加コンプレックスでは、緑色岩、チャート、石灰岩などのブロックが泥岩の基質中に複雑に混じりあい、メランジュと呼ばれる特徴ある構造を示す。
*2コンクリート心壁:上川地方には遮水ゾーンにコンクリート心壁を用いたダムがいくつかある。当麻ダムもその一つである。コンクリート心壁の施工記録として残っている資料に、和寒の南丘ダム(南丘貯水池、1951年完成)がある。ここではコンクリート心壁の寒中施工が行なわれた。北海道土木試験所月報(1949年第4号)に掲載された論文「土堰堤工事心壁コンクリート工寒中コンクリート施工について」によれば、「低周波の電流を流すことにより生じる発熱を利用した」とある。大成建設が施工しているが、当時としては極めて先進的な手法である。南丘ダムは天塩川土地改良区により現在も支障なく運用されている。
当麻ダムの改修においてもコンクリートの寒中養生が行われた。洪水吐コンクリートの打設個所を建屋で囲い、ストーブで加熱することによりコンクリートの養生を行っている。
なお記録によれば農業用ダム(ため池)の漏水防止工として、1932年に入間用水ため池、1937年に聖台貯水池においてセメント注入が実施されている。本格的なグラウトは1950年有野大池において堤体安定の目的で実施されている。
*3突哨山:国道40号比布トンネルは旭川市と比布町の境界に位置する。比布トンネルは突哨山を貫いている。突哨山の地質は当麻鍾乳洞と同じであり、緑色岩、石灰岩、チャートおよび粘板岩からなる付加コンプレックスである。突哨山の石灰岩はライマンが発見したと伝えられている。ここにも小規模の鍾乳洞が存在した記録があるが、石灰岩の採掘により消滅してしまった。突哨山には「男山自然公園」があり、春先のカタクリの開花時には多くの人でにぎわう。公園には展望台があり、石狩川のつくる沖積平野、溶結凝灰岩のつくる平坦な丘陵、当麻層のつくる残丘、さらに旭岳の遠望は格別である。
型式:ロックフィル
完成年度:1959年
堤高/堤頂長:21m/242m
総貯水量:304万m3
水系名/河川名:石狩川/当麻川